1946年、「小説の神様」と呼ばれた作家の志賀直哉が「日本語ほど不便で不完全なものはない。そうだ、日本の国語をフランス語にしよう」と言い出しました。
当時、日本語の作家としては随一の作家と評されていた彼の提案に、日本の文壇は大騒ぎとなり、今でいうところの「炎上」騒ぎとなりました。
「日本の文学をもっと世界に広めたい」との思いがあっての発言でしたが、世間に受け入れられることはなく、日本の国語は日本語のまま現在に至ります。
しかし、世界的に、特に欧米諸国から見て「日本語は特殊で習得するのが難しい言語」というのは共通認識のようです。
使用する文字はひらがな、カタカナ、漢字とあり、漢字には音読みと訓読みがあります。
日本語の特徴でもある敬語にも尊敬語、謙譲語、丁寧語とあり、地域によって様々な方言、更に時代の変化によって言葉使いも刻々と変わっていきます。
会話の中で主語を省略し、話の流れから相手に「察する」ことを求めるのも日本語の特徴です。
日本人にとって日本語は母国語であるため、日本語を学び、話し、書くという行為は自然なことではありますが、母国語ではない諸外国の人々にとっては難解な言語であるようです。
今年、アメリカの国務省が発表した「外国語習得難易度ランキング」で日本語は堂々の単独トップ、世界№1に輝きました。
このことを我々日本人は「とても誇らしい」と捉えるかどうかはさておき、技能実習生にとって、訪れた国の言語が実は世界で一番習得が難しい言語であったことは災難以外の何物でもありません。
現在、日本には28万人を超える技能実習生がいますが、彼らにとって、最大の壁となるのが、やはり日本語の習得なのです。
自分も普段接する技能実習生から「日本語難しいね」とよく言われます。
その際、「毎日ちゃんと勉強すれば必ず上手くなるから。頑張って!」と答えています。
確かに日々勉強すれば、徐々に上達はしていきます。
しかし、急激に上達することはほぼありません。
彼らは母国語ではない言語を半年程度学び、入国してきます。
「あいうえお」から始めて半年でペラペラになり、日本人と遜色なく言葉でコミュニケーションを取れるようになることはないのです。
そう、彼らが習得しようとしているのは「世界最高難易度」の言語なのです。
ちょうど一年前、弊組合のコラムにて「やさしい日本語」についてお話をいたしました。
小さな子供や高齢者、障害をもった人などに配慮したコミュニケーション方法の一つです。
難しい言葉を簡単な言葉に言い換えてゆっくり話すなどの工夫をすることで、彼ら技能実習生にとっても、とてもわかりやすい言葉に変わります。
例えば
「土足厳禁」→「くつを脱いでください」
「早朝6時に会社集合」 →「朝の6時に会社に来てください」
「本人確認出来るもの」→「在留カードを持っていますか」
このように、同じ内容でも言い方を変えることによって、わかりやすいものに変えられるのです。
相手のことを気遣いながら、相手に合わせ、ゆっくりとわかりやすい言葉で話すのはとても骨が折れることです。
しかし、日々話し方を意識しながら接することで、彼らは話の内容を徐々に理解し、コミュニケーションを取れるようになっていきます。
彼らが日本の生活、職場に馴染み、リタイヤすることなく実習を続けていくことは受け入れ企業様にとっても大きなメリットです。
技能実習生とのコミュニケーションにお悩みの企業様、一度「やさしい日本語」をお試し頂ければ幸いです。
冒頭の「フランス語国語化計画」を提案した作家の志賀直哉ではありますが、実は彼はフランス語を一切話すことが出来ませんでした。
話すことが出来ない人がどれだけ言っても説得力はなく、当然のように世間の賛同を得ることは出来ませんでした。
「自分が出来ないことを他人に強いるべからず」の典型であったと言えるでしょう。因みにフランス語は前述の「外国語習得難易度ランキング」で英語に次ぎ2番目に易しいグループにランクされています。
もし、彼がフランス語を流暢に話すことが出来ていれば、日本に来た技能実習生は今ほど言葉の壁に苦しむことがなかったのかもしれませんね。